【独自調査】爬虫類飼育者は増えてるのに病院増えてなくない?【コラム】
この記事では当ブログで独自に調査した、爬虫類を診察してくれる動物病院の数についてまとめます。
近年のペットブームで、カメレオンを含む爬虫類飼育者の数は確実に増えました。
一方でいまだに一般的とは言えないペットである爬虫類の飼育者には共通の悩みがあります。
その一つが、爬虫類を診療対象とする動物病院が少ないことです。
しかし、より多くの生体を扱うペットショップからは病院がない、遠くて困る、といった悩みはあまり聞きません。
実は私たち一般の飼育者が知らないだけで、爬虫類を診察できる病院が多かったり、飼育者やペットショップがあまり増えていないだけかも、と疑いました。
そこで、
- 爬虫類飼育者は本当に増えているのか
- 爬虫類を扱うペットショップの数はどれくらいか
- 爬虫類対応の動物病院の数はどれくらいか
といったことを、国が公開しているデータと独自の調査からまとめました。
結論から言うと、やっぱり爬虫類を診てくれる動物病院はとても少ないようです。
どれくらい絶望的な状況か、ぜひ調査結果をご覧ください。
また、こちらの調査をもとにした「動物病院とペットショップの関係」の調査も行いました。
こちらも併せてご覧ください。
少ない爬虫類対応の動物病院の中にも当たり外れがあります。
良い動物病院の選び方の解説記事もありますので、ぜひこちらも参考にしてみてください。
爬虫類飼育者は確実に増えている
爬虫類の飼育者数を直接確認する方法はないものの、日本に輸入された爬虫類の数を財務省貿易統計から知ることができます。
上のグラフは統計から過去 10 年分のデータをまとめたものです。
これによると、
- 過去 10 年間の爬虫類輸入数は増加傾向
- 2016 〜 2022 年にかけては 6 年連続増加
- トカゲ類の輸入は 6 年間で約 3 倍に急増した
といったことが読み取れます。
トカゲ類の輸入数増加率が大きいのは、統計上トカゲ類に分類されるヒョウモントカゲモドキとフトアゴヒゲトカゲのペット人気が高まっていることに起因すると考えられます。
アニコム「家庭どうぶつ白書 2023」によると、1 年間に新規契約したトカゲ類のうち 63.0% がヒョウモントカゲモドキ、22.5% がフトアゴヒゲトカゲです。
これらのデータからも、爬虫類飼育者の数は確実に増えていると言えます。
東京都で爬虫類を扱うペットショップは18.6%
爬虫類の輸入数が増えたということは、それを扱う事業者の数も昔より多いはずです。
しかし、爬虫類を扱うペットショップの増減を統計的にまとめたデータは、見つけることができませんでした。
そこで、現在の第一種動物取扱業の登録者名簿が公開されている東京都を対象に、種別を販売としている登録者の取り扱い生物種を独自に調査しました。
2024 年 4月現在の公開登録者名簿で、生体の販売実態があるいわゆるペットショップを抽出すると 1,058 軒、そのうち 1 頭以上の爬虫類を扱う事業者は 197 軒。
東京都のペットショップのうち、18.6% が何らかの爬虫類を扱うという計算です。
過去のデータと比較できないものの、現在東京都で爬虫類を扱うペットショップは実に 5 軒に 1 軒に上るとわかります。
昔はマニア向けだった爬虫類が、現在では比較的多くのペットショップで扱われているといえます。
【独自調査①:概要】
- 調査方法
- インターネット調査
- 使用データ内で種別が販売となっている登録者が対象
- 公式のサイトや SNS で販売生物種など実態を調査
- 調査期間
- 2024 年 4 月 2 日 〜 4 月 5 日
使用データ
- 東京都 第一種動物取扱業者一覧(2024 年 4 月 2 日参照)
※区分 4・島しょ を除く
東京都の爬虫類対応動物病院は63軒のみ
爬虫類を扱うペットショップの数が分かったところで、爬虫類を診療可能な動物病院の数も独自に調査しました。
各種動物病院検索サイトで、東京都の爬虫類対応とされる 135 軒をリストアップ。
各病院の公式サイトなどを調べると、爬虫類を診療すると明記されていたのは 63 軒のみでした。
農林水産省が公表している 2023 年のデータによると、東京都全体の動物病院の数は 1,882 軒ですので、東京都の動物病院の 3.3% しか爬虫類の診察を行なっていないことになります。
先の調査から東京都の爬虫類を扱うペットショップは 197 軒、平均すると病院 1 軒あたり 3 軒のペットショップを対応する計算です。
ペットショップから病院が足りないと言う声を聞かないのが不思議なくらい、圧倒的な病院不足です。
ちなみに、犬猫の場合は病院 1 軒あたりペットショップ 0.4 軒という比率なので、いかに爬虫類を診れる病院が不足しているかがわかります。
【独自調査②:概要】
- 調査方法
- インターネット調査
- 各種動物病院検索サイトで、爬虫類診療可能となっている東京都の病院 135 軒を抽出
- 公式サイトや SNS で、爬虫類を診療対象と明記しているか実態を調査
- 調査期間
- 2024 年 4 月 6 日 〜 4 月 13 日
使用データ
- Calooペット(東京都 爬虫類診察可 で検索)
- アニコム(東京都 カメ診察可 で検索)
- EPARKペットライフ(東京都 爬虫類診察可 で検索)
- 東京ドクターズ(東京都 爬虫類診察可 で検索)
- アイペット(東京都 爬虫類診察可 で検索)
- Reppital(東京都 で検索)
やっぱり爬虫類の病院は少ない!!
体感ではなんとなくわかっていた「爬虫類の病院少ない問題」ですが、今回の調査のように数字で確認したのははじめてでした。
実際に数値化すると、思っていたよりも遥かに爬虫類飼育者にとって厳しい現実が浮き彫りになります。
東京都の人口あたりの動物病院数は全国でトップです。
しかも全国的に知られる、いわゆる爬虫類の名医が複数人いて、日本で一番恵まれた爬虫類の医療が受けられる場所です。
その東京都ですら、これほど爬虫類を診察できる病院が少ないとなれば、もはや地方の爬虫類飼育者にとっては絶望的な状況と言えるでしょう。
飼育者と同じく、爬虫類を扱うペットショップやブリーダーも病院の少なさで困っている可能性があります。
独自に東京都の動物病院へアンケート調査を行った記事がありますので、こちらもご覧ください。
爬虫類対応の病院が少ない理由を考える
なぜここまで爬虫類を診れる病院が少ないのでしょうか?
これには獣医師が国家資格を取得する過程に大きな原因があると考えます。
今の獣医師の資格取得には、爬虫類の医療については素人であろうが精通していようが全く関係ない、という制度上の欠陥があるからです。
以前カメレオンの良い病院の選び方の記事でも触れましたが、獣医師の資格を取得するための国家試験は、獣医学部で 6 年間学ぶことによって受験資格が得られます。
この 6 年かけて学ぶ内容の中に、爬虫類の治療法は含まれないのです。
爬虫類に関する知識や治療の臨床技術は、資格の取得後に先輩獣医師や書籍、セミナーなどの力を借りて、各自の努力で身につけるほかありません。
爬虫類を扱うペットショップや飼育者が増えいる今となっては、獣医師の資格取得に爬虫類が無関係であるのは大きな問題です。
もし獣医師の資格取得の過程で少しでも爬虫類のことについて学んでいれば、現状の爬虫類の病院不足も違った結果になるでしょう。
時代にあった資格制度になるよう獣医学教育モデル・コア・カリキュラムの大幅な改訂や、必要であれば獣医師法の改正にまで踏み込んだ、制度の再設計が必要ではないでしょうか?
補足資料
財務省貿易統計
統計品目番号 | 品目名 | 含まれる種(生物学的分類) |
---|---|---|
010620010 | かめ目 | カメ目 |
010620020 | ワニ目 | ワニ目 |
010620031 | トカゲ亜目 | 有鱗目(トカゲ亜目) |
010620039 | 有鱗目その他のもの | 有鱗目(トカゲ亜目を除く) |
010620090 | 爬虫類その他のもの | ムカシトカゲ目 |
スライドできます→
財務省貿易統計とは、輸出入の際の申告をもとに作成されたデータが公開されている統計情報です。
生きた爬虫類の場合は、輸入統計品目番号 010620010 〜 010620090 の5つに分類、集計されています。
過去 10 年間に輸入数の増加が著しかった「トカゲ亜目」は、生物分類的にも有鱗目の中のトカゲ亜目と呼ばれるものです。
トカゲとついた分類ですが、
- トカゲ
- ヤモリ
- イグアナ
- カメレオン
など、非常に多くの種が含まれます。
【参考①】輸入統計品目表(1類)
【参考②】関税率表解説・分類例規|動物(生きているものに限る。)
飼育動物診療施設の開設届出状況
動物病院は開設や廃止にあたって、10 日以内に都道府県知事に届出をする必要があります。
届出を農林水産省が集計したものが毎年公表されているため、都道府県ごとの動物病院数は正確な把握が可能です。
集計データは家畜や家禽の治療を行う産業動物獣医師のいる病院と、ペットを対象とした動物病院で分けてカウントされています。
今回使用したのは、2014 〜 2023 年のペットを対象とした動物病院のデータです。
東京都を例にすると 2023 年の動物病院は 1,882 軒、小学校の数 1,323 校の 1.4 倍もあることになります。
動物病院がいかに多いかがイメージできるのではないでしょうか?
東京都の動物病院は総数が日本で一番多いだけでなく、人口あたりの軒数でも日本一です。
1 万人あたりに直すと、1.34 軒という割合です。
人口あたりの動物病院が最も少ない富山と比べると 2.2 倍以上の高密度となります。
また、このデータによると日本全体の動物病院は過去 10 年間にわたり連続で増加を続けています。
増加率は鈍化してきていますが、犬や猫の飼育頭数は増えていないにも関わらず、病院の数だけが増え続けている状態です。
【参考①】飼育動物診療施設の開設届出状況(診療施設数):農林水産省
【参考②】統計局ホームページ/人口推計
【参考③】学校基本統計 令和5年度 学校基本統計(学校基本調査報告)|東京都の統計
獣医学教育モデル・コア・カリキュラム
獣医学教育モデル・コア・カリキュラムとは、獣医学部で学ぶ内容を国がガイドラインとして示したもので、獣医師が資格取得までに受ける教育の根幹をなすものです。
内容は、
- 講義科目 51 科目
- 実習科目 19 科目
- 合計 70 科目
という膨大な科目数にわたります。
しかし、この中に爬虫類の治療に関するものは含まれません。
もちろん多くの生物に共通する基本的な獣医学は学びますが、爬虫類独特な体の構造や生態、特有の病気などについては教えられることも習熟度の確認もされません。
言い方を変えると現行の獣医師法では、爬虫類の治療に関して全く学ぶことなく資格の取得が可能です。
爬虫類の動物病院が少ない理由は、上記のような獣医師の教育課程に爬虫類が抜け落ちたものになっているからと言えるでしょう。
詳しくは以下のリンクから公式 PDF を見られるので、ぜひ一度ご覧ください。
188 ページもあるカリキュラムなのに、本当に全く爬虫類の治療に関する内容がありません。
爬虫類の病院少ない問題 まとめ
今回は「爬虫類の診察をしてくれる動物病院が少なすぎる」という問題について、独自調査を含めた数値化をしてみました。
感覚的には理解していた爬虫類の病院を探す難しさは、数値化によってより深刻な問題であることがわかりました。
ペットとしての爬虫類は近年特に流通量が増え、東京都のペットショップの 5 軒に 1 軒が扱うまでになっています。
にも関わらず、最も恵まれた環境の東京都ですら、動物病院の 3% しか爬虫類の診察をしないのです。
動物病院は年々増加を続けているのに爬虫類の病院が極端に少ないのは、獣医師の資格制度の構造的欠陥が原因であると考えられます。
現状の歪みを是正するため、必要であれば獣医師法の改正をまで含めた“制度の再設計”が必要ではないでしょうか?
今後は少しでも爬虫類を診ることができる動物病院が増えていくことを願っています。
この記事がカメレオン飼育者の方や、これから飼い始める方の参考になれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。