【脱皮不全】カメレオンの脱皮の基本と脱皮不全の予防【解説】
この記事では、カメレオンの脱皮の特徴と脱皮不全について解説します。
カメレオンは爬虫類なので、犬や猫にはない“脱皮”があります。
脱皮はカメレオンが生きている間ずっと続く、日常的なサイクルの一つです。
しかし、うまくいかないと脱皮不全などの健康問題につながる可能性もあります。
脱皮不全という言葉を聞いて不安になっている方や、今までに脱皮不全を経験した方もいるのではないでしょうか?
- カメレオンの脱皮の特徴
- 脱皮に関する注意点
- 脱皮不全を防ぐには
カメレオンと生活する上で上手に付き合わなければならない脱皮について、飼育者が知っておくべきことをまとめました。
飼育初心者の方はもちろん、すでに何度もカメレオンの脱皮を経験している方にも役に立つ内容です。
ぜひ参考にしてみてください。
カメレオンの脱皮の特徴
爬虫類の皮膚は脱皮で一定期間ごとにまとめて剥がれ落ちる仕組みです。
ただし、カメレオンの脱皮は多くの人が思い浮かべる脱皮の特徴と違った部分もあります。
カメレオンの脱皮に関する基礎的な知識を解説します。
- ヘビと違って部分的な脱皮をする
- 脱皮の間隔
ヘビと違って部分的な脱皮をする
爬虫類の脱皮と聞いて多くの人が思い浮かべるのがヘビの脱皮ですが、カメレオンの脱皮は雰囲気が違います。
ヘビは多くの場合で、ひと繋ぎになった全身の皮を一気に脱皮します。
しかしカメレオンの場合は全身の皮が同時に剥けることは稀です。
右手だけとか、尻尾だけ、というように部分的な脱皮を断続的に行います。
このように部分的に脱皮をすることを「部分脱皮」と呼びます。
たまに全身同時に脱皮がくる全身脱皮もありますが、部分脱皮のほうが圧倒的に高頻度です。
一般にイメージされる脱皮と見た目がかなり違って病気のように見えますが、カメレオンにとっては普通のことなので心配ありません。
脱皮の間隔
カメレオンの脱皮の頻度や間隔についても紹介します。
脱皮の頻度は年齢や健康状態によっても変わります。
特に年齢による脱皮の頻度の変化は顕著です。
幼いほど高頻度で全身脱皮のような大規模な脱皮がありますが、フルアダルトでは小さな部分脱皮を繰り返すゆっくりとしたサイクルになっていきます。
一例として、パンサーカメレオンでは、
- ベビー
- 月に 1 度程度の大規模な脱皮
- 全身脱皮の割合が高い
- フルアダルト
- 数ヶ月間部分脱皮を繰り返して全身が脱皮する
- 全身脱皮の割合は低い
というようなイメージです。
また、健康状態によっても脱皮の頻度は変化します。
病気や栄養状態の悪化で皮膚の代謝がうまくいかなくなると、いきなり脱皮をしなくなります。
それまで一定の間隔で脱皮していたのに、急に頻度が下がった場合は注意が必要です。
カメレオンの脱皮中の注意点
カメレオンの脱皮は成長の証ですが、トラブルのもとになる場合もあります。
脱皮中はいつもより注意深くカメレオンの様子を観察することが大切です。
普段の脱皮での注意点とケアのポイントをまとめます。
- 脱皮カスが残る脱皮不全で問題が起きる
- 脱皮カスが目に入ることがある
- 食欲が落ちたり不機嫌になることがある
脱皮カスが残る脱皮不全で問題が起きる
脱皮カスが残ったままの状態を脱皮不全と呼び、放置すると壊死などの重篤な問題が起きることがあります。
健康なカメレオンでも、手足の指先や尻尾の先は脱皮カスが残りやすい部分です。
もしこれらの部位にリング状や袋状のカスがついたままになると、包帯をキツく巻いたような状態が続きます。
脱皮カスに圧迫されたままだと血行が悪くなり、最悪の場合は先端部の壊死に繋がります。
壊死とは別に、残った脱皮カスと新しい皮膚の間で雑菌が繁殖することがあり注意が必要です。
放っておくと感染症に発展して炎症を起こしたり、かさぶた状の病変ができたりします。
壊死とは仕組みが違いますが、脱皮カスが原因であることは同じです。
以下の脱皮カスのケアでうまくいかない場合は、悪化してしまう前にできるだけ早く病院で処置をしてもらいましょう。
脱皮カスが残りやすい場所のケア
カメレオンの脱皮では、健康な個体でもどうしても脱皮カスが残りやすい場所がありケアが必要です。
具体的には、
- 手足の指先
- 尻尾の先
の 2 箇所です。
もし脱皮カスが残ってしまったら、濡らした綿棒などで優しく剥がすのが一般的です。
脱皮カスの固着の程度によって剥がれやすさがかなり違います。
触っただけで外れることもあれば、少し時間がかかることも珍しくありません。
カメレオンは押さえつけられるのを嫌がるので、ハンドリングしつつ根気強く綿棒を当てがうようにしてふやかしましょう。
どうやっても剥がれない場合は、不適切な飼育環境や栄養バランスの崩れなどで脱皮不全になっていることもあります。
自分の手に負えないと感じた場合は、早急に病院に連れていきます。
詳しくは、脱皮不全になってしまったらの章で解説しています。
脱皮カスが目に入ることがある
顔まわりの脱皮の時に稀に起きるのが、目に脱皮カスのカケラが入ってしまう事故です。
人のまつ毛が抜け落ちた時に目に入ってしまうようなもので、痛みから急に目を閉じたままになります。
脱皮の途中や直後に目を閉じてしまうようになった場合は、脱皮カスが目に入ってしまったことが原因かもしれません。
目が開いたタイミングがあれば、それっぽいものが入っていないか観察して見てください。
もし脱皮カスが原因であれば、一般家庭にあるもので除去するのは難しいので動物病院へ連れて行きましょう。
食欲が落ちたり不機嫌になることがある
個体によっては脱皮中やその前に食欲が落ちたり、いつもより不機嫌になることがあります。
脱皮はカメレオンにとって心地よいものではないようです。
やはり痒かったり、何かしらの不快感があるのだと思います。
そのため、脱皮が原因と思われる食欲低下や、不機嫌な状態が現れることがあります。
特に食欲の低下は何かの病気とつながっていることもあるので注意が必要です。
一度の脱皮では確信が持てないと思いますが、何度かの脱皮を経験すると、傾向が掴めてきます。
普段から脱皮の様子を観察しておくと、「これは脱皮のせいかも…」と判断ができるようになります。
もし脱皮の様子に慣れていなくて心配な場合は、念のために病院へ連れて行っておきましょう。
食欲が落ちる原因については餌飽きの記事をご覧ください。
カメレオンの脱皮不全を防ぐためには?
カメレオンの脱皮不全の仕組みは完全には分かっていません。
しかし、いくつかの「避けた方がよいこと」や「脱皮を助ける方法」があります。
飼育の基本にも繋がる大切な部分なので、脱皮不全の予防についても紹介しておきたいと思います。
- 適切な飼育環境を整える
- 栄養を適切に与える
- 日光浴で脱皮を促進する
- 極端なことはしない
- 病気や外傷にも気を付ける
【参考】DERMATOLOGICAL DISORDERS IN REPTILES
適切な飼育環境を整える
脱皮不全の大きな理由は飼育環境が不適切なことです。
温度や湿度をはじめ、飼育環境がカメレオンに与える影響は大きいです。
脱皮不全に関しても飼育環境が原因となるケースが多いとされています。
温湿度管理や紫外線の管理など、基本的な飼育環境を整えることが脱皮不全の予防につながります。
もし脱皮不全になった場合は、一度飼育環境の見直しをしてみましょう。
栄養を適切に与える
栄養バランスの崩れは脱皮不全の原因の一つです。
栄養バランスが崩れた状態は、脱皮のために必要な材料のバランスが崩れた状態といえます。
必要な材料に不足があるので、正常な代謝ができずに脱皮がうまく行きません。
栄養が十分にある質の良い活き餌と、適切なサプリメントの利用が大切です。
日光浴で脱皮を促進する
日光浴は脱皮の促進に効果的です。
日頃からできるだけ屋外で日光浴をすることで、脱皮の促進をすることができます。
カメレオンの脱皮には、紫外線が重要な役割を果たします。
紫外線灯でもある程度の効果がありますが、太陽の力には及びません。
ケージの紫外線灯だけに頼らず、可能な限り日光浴を行うことをおすすめします。
極端なことはしない
脱皮不全の予防としてよく紹介されるのが、
- とりあえず加湿・霧吹き
- とりあえず紫外線量を増やす
- とりあえずサプリメントを与える
といった方法です。
しかし、これらの要素は適切に与えることが重要なのであって、とにかく増やせば脱皮不全を防げるというわけではありません。
今の飼育環境が対象のカメレオンにとって適切かどうかをよく検証して、不足している部分のみを改善するのが大切です。
脱皮不全を恐れるあまり、根拠なく極端な方法を試すのはやめておきましょう。
あまりに極端な方法の場合、脱皮不全の予防どころか逆に悪化させてしまったり、脱皮以外の部分に悪い影響が出て体調を崩すこともあります。
その他の原因:病気や外傷にも気を付ける
脱皮不全の間接的な原因になる病気や外傷にも気をつけます。
脱皮不全の直接的な原因は飼育環境や影響状態が不適切なことが多いです。
一方で、他の病気や外傷が脱皮不全につながることもあります。
一般的に爬虫類の脱皮不全を引き起こすと言われるその他の要因は以下のとおりです。
- 外部寄生虫
- 皮膚に寄生するダニやノミが脱皮不全を引き起こす
- 火傷や咬み傷・擦り傷
- 傷によるダメージで患部の脱皮が正常に行われない
- その他病気
- 感染症・内臓疾患・内部寄生虫などによる健康状態の悪化で代謝に異常が起きる
脱皮不全のように外見からわかりやすい症状が、他の病気やケガによって引き起こされていることがあります。
基本的な健康を守ることが結果的に脱皮不全を予防することにもつながります。
日頃からカメレオンをよく観察して、いつもと変わったことがないかを確かめながら過ごしましょう。
脱皮不全になってしまったら
あなたのカメレオンが脱皮不全になってしまった場合の対処法を解説します。
- 脱皮不全の判断時期
- 自分で試せる対処方法
- 無理なら早急に病院へ
- 飼育環境や栄養状態の見直し
脱皮不全の判断時期は2〜3日
脱皮不全になってしまったら対処が必要ですが、「脱皮不全だ」と判断するタイミングが重要です。
しかし、どこからが脱皮不全なのかという獣医学的基準は見つかりません。
あくまで経験的な基準ですが、わが家では周辺の脱皮が終わって 2 〜 3 日しても患部の脱皮カスが取れないようなら脱皮不全だと判断します。
例えば、手の周りの皮膚が剥がれて 2 〜 3 日しても指先の皮が残ったままになっている、と言うようなケースです。
部分脱皮と脱皮不全の見分け方は、以下のとおりです。
- 部分脱皮
- 2 〜 3 日で境目が周りと同化する
- 脱皮不全
- 2 〜 3 日しても患部が白っぽく残っている
部分脱皮であれば、2 〜 3 日で脱皮部分とそれ以外の部分の境目がわからないほど馴染みます。
脱皮不全の場合は、2 〜 3 日経っても患部が白っぽく濁り境目がはっきりとわかります。
特に手足の指先やしっぽの先は、カメレオンにとって脱皮不全の起こりやすい部分なので注意して確認してください。
自分で試せる脱皮不全の対処方法
脱皮不全が見つかったら、まずは自分でできる方法で対処してみます。
ひとえに脱皮不全といってもごくごく軽微なものから重症なものまで様々です。
症状の確認も兼ねて以下の対処をしてみてください。
- 軽度
- 綿棒でそっと撫でる
- ただ剥がれ落ちていないだけなら触るだけで取れる
- 軽度〜中程度
- 濡れた綿棒でそっと剥がす
- 少し引っ付いているだけなら水分を与えると取れる
- 中程度
- 濡れた綿棒でふやかしてから剥がす
- 頑固な時は濡れた綿棒で抑えてふやかすと取れる
多くの場合は②の濡れ綿棒で剥がす程度の処置でなんとかなります。
もし、③の濡れた綿棒でふやかしても剥がれなかったり、広い面積の皮膚が残っているようなら、重篤な脱皮不全に陥っている可能性もあります。
早急に病院に連れて行きましょう。
自分での対処が無理なら早急に病院へ
脱皮不全について家庭でできる対処は限られているので、自分での処置が難しいなら早急に病院へ連れて行きます。
脱皮不全なのか脱皮の途中なのかわかりづらく「待てば改善するかも」と様子を見てしまいがちです。
しかし、基本的には 2 〜 3 日経って変化がない場合は、自然に改善するケースはほぼありません。
濡れ綿棒での処置が効果をあげない場合は、すぐ獣医師に診察してもらうようにしましょう。
いい病院の選び方や移動方法についての記事も参考にしてみてください。
飼育環境や栄養状態の見直し
病院での処置が必要なほどの脱皮不全の場合は、飼育環境や栄養状態の見直しをします。
大規模な脱皮不全は、飼育の基本的な部分が不適切なことが原因の場合が多いです。
脱皮不全を防ぐ裏技のようなものがあるわけではありません。
先に述べた、温湿度の管理をはじめとした飼育の基本部分をよく見直してみましょう。
爬虫類の脱皮の仕組み
カメレオンを含む爬虫類の脱皮の仕組みを簡単に解説します。
脱皮は目に見える古い皮膚が剥ける時だけではなく、見えない時から繋がる連続的なサイクルです。
皮膚の構造と脱皮の流れを知ると、どのようなことに気をつけるべきかわかりやすいと思います。
前提:爬虫類の皮膚の構造
- 古い皮膚
- 古い角質層、脱皮の時に剥がれる部分
- 新しい皮膚
- 成長中の角質層、脱皮後は一番外側になる
- 皮膚を作る層
- 基底層と呼ばれ新しい皮膚を作る
爬虫類の脱皮に関係する皮膚の構造は、外側から順に 3 層。
新しい皮膚は、古い皮膚と基底層の間で古い皮膚を押し上げるように成長します。
厳密に言うと、それぞれの角質層はさらに複数の層に分かれた複雑な構造をしています。
詳しく知りたい方は脱皮に関する論文がいくつかあるので、ぜひご覧ください。
【参考①】Reptile scale paradigm: Evo-Devo, pattern formation and regeneration
【参考②】Reptilian Skin and Its Special Histological Structures
脱皮は連続的なサイクル
- 新しい皮膚の成長
- 古い角質層の下で基底層が新しい角質層を作る
- 新しい皮膚は古い皮膚を押し上げるように成長
- 分離層の形成
- 新しい皮膚ができたら新旧の皮膚の間に分離層が形成される
- 分離層には白血球やリンパ液が浸透していく
- 新旧皮膚の分離
- 分離層で酵素が働き新旧角質層の分離が始まる
- 脱皮の前に皮膚がくすんだり白っぽくなるのはこのため
- 古い皮膚の脱落
- 古い角質層が脱落して目に見える脱皮が始まる
- 新しい角質層は脱皮後に硬化して強度が上がる
- 全ての工程が終わると❶へ戻る
私たちが脱皮と呼ぶのは目に見えて古い皮膚が剥がれる④の段階です。
しかし脱皮は一時的な変化ではなく、連続的なサイクルの一つです。
脱皮がうまくいくかどうかは、日頃の飼育環境や栄養状態によって決まります。
目に見える脱皮の時だけ湿度を変えてみたりするのではなく、常日頃から適切な飼育管理を行うことが大切です。
補足:脱皮促進剤は全くおすすめしない
爬虫類向けに脱皮不全の予防や改善を謳う“脱皮促進剤”が販売されていますが、わが家は全くおすすめしません。
脱皮不全の爬虫類にスプレーして使う、水を主成分とした製品です。
中には「これだけで脱皮不全に悩まない」というような表現を使っているものもあります。
これらの製品をおすすめしない理由は以下の 3 つです。
- 科学的根拠がない
- 脱皮不全の原因は 1 つではない
- 逆に悪化を招くかもしれない
科学的根拠がない
脱皮促進剤と称して販売されている製品たちは、脱皮不全に効果があるという科学的根拠が全く示されていません。
日本国内で流通する主な脱皮促進剤は、国内メーカー A 社と海外メーカー B 社の製品の 2 種です。
これらの製品は、どちらも科学的に有効だと証明できるようなデータが示されていません。
科学的な根拠を得るためには、以下のような要件が必要です。
- 客観性
- 個人的な偏見や感情に左右されず、誰が実験を行っても同じ結果が得られること
- 再現性
- 同じ条件下で同じ手法を用いた場合、同じ結果が得られること
- 検証性
- 他の研究者によって独立に検証され、確認できること
- データの信頼性
- 収集されたデータが正確で信頼できるものであること
国内メーカー A 社の製品は公式サイトで“科学的根拠”を主張するものの、どの要件を満たすデータも公開されていません。
それどころか、製品の作用機序や脱皮の仕組みについての解説にも不可解な点が多く、“科学的根拠”と言えるような内容は見つけられませんでした。
なお現在の獣医学では、脱皮不全の治療や予防に液体のスプレーが使用されることはありません。
以下はクイーンズランド大学獣医学学士の Bob Doneley 博士らによって書かれた爬虫類の獣医学書から、脱皮不全について抜粋し意訳したものです。
- 脱皮不全の原因
- 環境湿度の低下と周囲温度の低下が主な原因
- 脱水やビタミン欠乏症、動きの障害なども関与する
- 傷跡やダニ感染、適切なレイアウトの不足も原因となることがある
- 治療
- ぬるま湯に浸けふやかし濡れタオルで優しく取り除く
- 人工涙液や湿らせた綿棒で柔らかくしてから取り除く
- 末端部が壊死した場合は切断が必要
- 予防と管理
- 環境条件の最適化が重要で、湿度や温度の調整が必要
- 砂漠棲のトカゲには低湿度と高湿度の両方が必要
- 生体自身が脱皮カスを擦りつけるためのレイアウトを提供する
何か特別な液体で脱皮を促進するような画期的な方法があれば書かれているはずですが、この記事でも述べているような基本的なことしか書かれていません。
カメレオンの脱皮不全の対策は基本的なことを徹底する他にないのです。
もし、脱皮不全をスプレーで予防したり改善したりできるような科学的根拠を得られているのであれば、爬虫類の獣医学史に残るような大発見ですが、そのような学術論文も見つかりません。
脱皮不全の原因は 1 つではない
脱皮不全の原因は 1 つではありません。
- 飼育環境の不備
- 栄養バランスの崩れ
- その他の病気
脱皮不全は上記のような色々な理由が原因で起こります。
その時の脱皮不全の原因に合わせた適切な対処をしなければ改善を見込めません。
科学的根拠がなくとも、脱皮不全の理由が偶然にも湿度の不足だった場合は、液体の脱皮促進剤が効果をあげることがあるかもしれません。
しかし、その場合であっても本来の適切な対処はケージの湿度を上げることです。
「脱皮促進剤で脱皮不全が改善する」と妄信していては、飼育環境の不備や他の要因に目がいかず適切な対処をする機会を逸してしまいます。
人でも効果の実証されていない民間療法を信じて亡くなる方がいます。
カメレオンに致命的なダメージを与える原因とならないよう、獣医師のアドバイスのもとで正しい対応をすべきです。
逆に悪化を招くかもしれない
脱皮不全を起こす原因が特定できないまま、闇雲に脱皮促進剤を使うと脱皮不全の悪化を招くことすらあります。
A 社の取得した特許の情報によると、脱皮促進剤の成分は 97% が水です。
そのほぼ水の脱皮促進剤は生体に霧吹きして使います。
端的にいえば脱皮促進剤は生体に水をかけている状態です。
先に述べたとおり、脱皮不全には複数の原因があります。
もし脱皮不全の原因が湿度不足であれば、霧吹きで良い効果が出る場合もあるでしょう。
逆に湿度が過剰なことが生体の体調不良を招き脱皮不全につながっているのであれば、脱皮促進剤の水分が症状を悪化させることにつながるかもしれません。
脱皮不全になってしまった場合は、原因に合わせた対処が必要です。
脱皮促進剤で水分を与えるだけでは悪化を招くことも考えられます。
必ず獣医師に診てもらったうえで、飼育環境や栄養状態の見直しをしてみましょう。
補足の補足:メーカーに直接問い合わせてみた
公開されていない科学的根拠があるかもしれないので、脱皮促進剤を販売するメーカーに直接問い合わせをしてみました。
国内メーカー A 社、海外メーカー B 社とも、「科学的根拠はあれば教えてほしい」といった内容のメールの問い合わせについて 1 ヶ月経った今も返答がありません。
仕方がないので、国内メーカー A 社には追加で電話での問い合わせもしてみました。
しかし、残念ながら電話でも科学的根拠についての回答は得られませんでした。
通話内容の要点は以下のとおりです。
- Q.脱皮促進剤の効果、科学的根拠を示してほしい
- A.長くなるので電話では説明できない
- A.特許を取得しているので特許庁に確認してほしい
- A.電話でも公式サイトでも説明しないが、展示会やイベントでは説明している
- A.獣医や動物病院を含めたグループと実験を進めたが、それがどの病院なのかは言えない
- A.みなさんからいい評価をいただいている
- Q.科学的根拠を示せないなら誇大広告ではないか?
- A.広告を変えるつもりはない
- A.悩んでいる人が多いし、実際に助かったという声をいただいている
補足情報として、特許庁は個々の案件について科学的根拠を担保する機関でないこと、公開されている当該特許情報には科学的根拠を示すようなデータが含まれなかったことをお伝えしておきます。
これらの返答をどのように評価するのかは、この記事を読んでいる方の判断にお任せいたします。
電話は話題が製品の作用機序に及んだあたりで、先方から「出かけなければならない」と申告があり終わらせられてしまいました。
メールで科学的根拠を示す資料を送ってもらうよう約束を取り付けたので、追加の情報が得られればこの記事でも追記していきたいと思います。
送られた資料の内容によっては、消費者庁への情報提供など次の対応を考えていく必要があると考えています。
【参考①】事例でわかる景品表示法|消費者庁
【参考②】特許権者における広告表示の留意事項について(景品表示法上の留意点)
2024/6/21 追記
電話問い合わせで約束していたメールでの資料送付は 1 週間経ってもありませんでした。
何かやむを得ない事情が発生している可能性を考えて、念のため再度電話で連絡を取ろうとしたもののつながらず、おそらく着信拒否されているようです。
他の番号で連絡すると担当者につながりましたが、
- 科学的根拠を教える義務はない
- あなたはクレーマーでこちらは迷惑している
とのことで、最後は電話を切られてしまいました。
本件において A 社は科学的根拠不明のまま「科学的根拠がある」とする広告をしているため、不当表示(不実証広告規制)に抵触する可能性が高いと考えます。
消費者庁の景品表示法違反被疑情報提供フォームより、脱皮不全に関する獣医学書などの参考文献や通話の記録をまとめて提供しました。
今後、本件の適法性の判断は消費者庁に委ねようと思います。
【参考③】不実証広告規制 | 消費者庁
【参考④】景品表示法違反被疑情報提供フォーム|消費者庁
カメレオンの脱皮と脱皮不全について まとめ
今回はカメレオンの脱皮とその注意点について解説しました。
脱皮は全てのカメレオンに必要な、日常的なサイクルの 1 つです。
しかし、脱皮不全という病気とも隣り合わせでもあります。
適切に対応しないと、壊死や感染症など重篤な症状につながる危険もあります。
飼育者の不安に付け込んだ悪質な製品もありますが、脱皮不全を予防・改善する画期的な裏技があるわけではありません。
私たちにできることはカメレオンをよく観察して適切な飼育環境や栄養を提供するという、基本的なことだけです。
カメレオンの脱皮の特徴や仕組みを理解して、適切な脱皮不全の予防をしてほしいと思います。
この記事がカメレオン飼育者の方や、これから飼い始める方の参考になれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。