【活き餌】ガットローディングとは?効果と必要性を正しく理解しよう
この記事では、爬虫類の活き餌のガットローディングの意味と目的について解説します。
SNS を中心に、ガットローディングという言葉が曖昧な意味のまま使われています。
言葉としては知っているけれど、意味はよく分からないという方も多いのではないでしょうか?
発言者によって意図する意味が違ったり、議論の中で根拠のない主張が繰り返されるなど、混沌としたやり取りを一度は見たことがあると思います。
- ガットローディングの歴史
- 現在ガットローディングが意味するもの
- ガットローディングより大切な基本
ガットローディングの歴史や、どうすればカメレオン・爬虫類にとって有益なガットローディングができるのかを、論文などをもとにまとめました。
ガットローディングという言葉をそれっぽく使うだけの情報源に振り回されず、正しく活き餌と栄養素について向き合ってほしいと思います。
【定義①】本来のガットローディングとは?
本来のガットローディングの意味と、現在のガットローディングの意味には大きな違いがあります。
ガットローディングという言葉が生まれた歴史と、本来の目的を紹介します。
本来の目的はカルシウムの補填
ガットローディングという手法が生まれた本来の目的は、活き餌の Ca:P 比の改善でした。
飼育下の爬虫類に与えられる活き餌は圧倒的にカルシウム不足です。
生き物が骨を作り変えるために必要な栄養素のうち、ミネラルではカルシウム(Ca)とリン(P)が重要な役割を果たします。
この2つの栄養素は、適切な割合( Ca:P 比)で摂取しないと正常に骨の代謝ができません。
そこで 1989 年、コオロギのカルシウム含有量を、コオロギに与える餌でコントロールしようという研究が行われました。
当該論文中にはガットローディングという言葉こそ使われていませんが、コオロギの Ca:P 比の変化に焦点を当てた研究です。
結果として、与える餌のカルシウム濃度を高めることで、コオロギの Ca:P 比を最大で約 1.7:1 に改善することに成功します。
この活き餌の餌を使用して Ca:P 比を改善する方法が、後にガットローディングと呼ばれるようになりました。
腸(gut)に充填する(loading)のとおり、活き餌にカルシウムを詰めこんで Ca:P 比を改善する手法の誕生です。
以降、ガットローディングの研究は Ca:P 比の改善に関するものがほとんどです。
【参考①】Nutrition in Reptiles – Management and Nutrition – Merck Veterinary Manual
【参考②】(PDF) Dietary Manipulation of the Calcium Content of Feed Crickets
現在カルシウムはダスティングで補うのが主流
ガットローディングは、活き餌のカルシウムを補うのに一定の効果がありました。
しかし、現在は活き餌の Ca:P 比の調整に使われるのはダスティングが主流となっています。
ダスティングとはカルシウムパウダーなどを活き餌にまぶしてから給餌する方法です。
これは複数の論文から「Ca:P 比を上げるのにはダスティングの方が確実だ」と分かってきたためです。
ガットローディングでは Ca:P 比が 1:1 を超えることができないという結果のものが多い一方、ダスティングでは 2:1 を上回るケースが多く確認されます。
単純に Ca:P 比を上げるという視点で見ると、ガットローディングよりもダスティングの方が確実だと言えるでしょう。
現在では多くの獣医師やブリーダーがダスティングでのカルシウム添加を推奨しています。
ガットローディングとダスティングの比較は、補足の項で深掘りしています。
Ca:P 比を整えるのにどちらが良いか、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
▶︎【補足②】カルシウムを補う上でガットローディングとダスティングどちらが優れているか
【定義②】現在ガットローディングが意味するもの
ダスティングによるカルシウムの添加が主流の現在も、ガットローディングという言葉が使われ続けています。
ガットローディングが本来の意味から派生し、他の意味も持つようになっているためです。
色々な意味で同じ言葉が使われるので、会話が噛み合わない原因になりがちです。
現在ガットローディングという言葉は次の 3 つの意味で使われます。
どのような意味で使われているのか、その目的を理解すると混乱せずに済みます。
それぞれの定義について知っておきましょう。
- 海外におけるガットローディング
- 市販の高カルシウム飼料でのガットローディング
- 日本国内における謎のガットローディング
海外におけるガットローディング
海外では、活き餌に生の野菜や果物を 2 〜 3 日与えてからカメレオンに給餌する方法を、ガットローディングと呼んでいます。
食事から得られる栄養素の多様性を保つのが目的です。
活き餌やサプリメントには含まれない、多様な栄養素を活き餌に詰めてから与えます。
本来のガットローディングとは異なり、Ca:P 比の改善が目的ではなく、カルシウムのダスティングとの併用が前提です。
海外におけるガットローディングは、野菜や果物の Ca:P 比や含まれるシュウ酸の量まで考慮していて、半ば栄養学に踏み込んだ方法論と言えます。
骨の代謝を邪魔しないよう Ca:P 比の低い食材を避けたり、シュウ酸を多量に含む食材は使用しないといった具合です。
世界最大のカメレオン専門コミュニティー Chameleon Forums で「Gutloading」と検索すると、どの野菜や果物を使うかの議論が交わされているのがよくわかると思います。
アメリカのカメレオンブリーダー Bill Strand 氏が運営する Chameleon Academy や、ドイツでカメレオン研究を行う MADACHAME.DE も、生の野菜や果物を与える方法を紹介しています。
【参考①】Chameleon Forums.com
【参考②】Basics: Chameleon Nutrition – Chameleon Academy
【参考③】Gutloading – Madcham.de
海外におけるガットローディングの手順は後述します。
実際に試してみたい方はこちらからどうぞ。
▶︎生の野菜や果物でガットローディングを試す
市販の高カルシウム飼料でのガットローディング
現在も、高カルシウム飼料でのガットローディングが細々残っています。
ダスティング以外の方法でカルシウムを与えたいという需要のためです。
この場合は、給餌前の数日間、市販の高カルシウム飼料を活き餌に与えることをガットローディングと呼んでいるようです。
中には自社製品でガットローディングをすれば、カルシウムパウダーでのダスティングが不要だと主張するメーカーもあります。
しかし、これらの製品のカルシウム含有量は 9% 前後です。
メーカーの主張でも改善後の活き餌の Ca:P 比は最大で 1.5:1 で、ダスティング不要でカメレオンが健康を維持できるかは不透明だと言えます。
また、カルシウムに加えてビタミンが添加されていることが多いですが、ビタミン剤のダスティングで代用できるため、高カルシウム飼料でないと得られないメリットではありません。
個人的には高カルシウム飼料でカルシウムを補うより、ダスティングをおすすめしています。
ガットローディングとダスティングの比較は、補足の項で深掘りしています。
Ca:P 比を整えるのにどちらが良いか、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
▶︎【補足②】カルシウムを補う上でガットローディングとダスティングどちらが優れているか
日本国内における謎のガットローディング
日本国内において、ガットローディングという言葉がフードのマーケティングや、なんとなく使われるケースが散見されます。
どちらの意味で使われている場合でも、ガラパゴス的な謎の理論が展開されることが多いです。
中にはお金や手間だけかかって全く効果のないようなものや、逆にカメレオン・爬虫類の健康を害するものが含まれることもあるので注意しましょう。
ガットローディングという言葉を利用したマーケティング
ガットローディング専用という体で販売される、目的のよくわからない活き餌用フードが販売されています。
謎フードの特徴
- 乾燥タイプの活き餌用フード
- 普段から使用できる
- 高カルシウムではない
- 生野菜や果物のような副次的栄養素も含まない
恐らく、これらの製品は通常の活き餌用フードで、売りやすくするためにガットローディング専用だとアピールしているだけです。
具体的な目的や効果は不明で、「栄養価アップ‼︎」というような曖昧な表現が目立ちます。
ガットローディングという言葉が独り歩きしたことを利用した、“マーケティング用語”だと思ってよいでしょう。
また、個人の活き餌専門店や、爬虫類ブリーダーが類似のフードを販売することもあります。
企業が販売しているものよりもさらに酷く、原材料名や成分表示など最低限の情報開示もありません。
中にはガットローディングというと凄そうに見えるからか、異常な高値で販売されるものも見かけます。
なんとなく使われるガットローディング
国内で 1 番よく聞くのが、なんとなく使われるガットローディングです。
- 市販のガットローディングフードを使う
- 市販のフードをミックスしている
- とりあえず野菜を与えている
など、「活き餌の餌にこだわってる」くらいの意味で使われています。
ガットローディングの意味が正しく伝わらないまま、伝言ゲームでグダグダになったことが原因と思われます。
SNS やブログでガットローディングの重要性を説く人がいますが、本質から外れた内容であることがほとんどです。
時には個人が編み出した謎の理論で、あれを足すといいとか、これは与えない方がよいといったやり取りが盛り上がることも珍しくありません。
安易に根拠のない情報に従ってしまうくらいなら、市販のフードを使っているほうが安全です。
SNS や個人ブログで紹介されることがある危険な食材についてもまとめています。
詳しくはこちらからどうぞ。
▶︎その他使わない方が良い食材
生の野菜や果物でガットローディングを試す
海外におけるガットローディングは、食事から得られる栄養素の多様性を確保できる優れた手法です。
具体的なガットローディングの方法と注意点を解説します。
ガットローディングの流れ
まずは、普通の活き餌用フードで元気な活き餌を用意します。
この時使うフードは、大豆や穀物を主原料としたものが良いです。
タンパク質など活き餌に必要な栄養がしっかりと与えられるものを選びましょう。
カメレオンに与える前の 2 〜 3 日間、必要な数の活き餌をガットローディングします。
餌を通常の活き餌用フードから、生の野菜や果物に変更しましょう。
普段のストック容器と別にガットローディング用の容器があると便利です。
通常の活き餌と同じように、カルシウムパウダーでダスティングしてから給餌します。
ガットローディング用の野菜や果物は、できるだけバリエーションを持たせます。
前述のとおり、ガットローディングの目的は栄養素の多様化にあるので、決まった種類の食材だけ与えるより効果的です。
海外のブリーダーだと、季節ごとに旬の野菜や果物を中心としたルーティンを組む方もいるようです。
適切なガットローディングの日数には諸説ありますが、概ね 2 〜 3 日とされます。
高カルシウム飼料でのガットローディングの研究で、カルシウムの濃度が最高になるのが開始後2〜3日だと示されているため広く採用されています。
長期間ガットローディングを続けても栄養価が上がらなかったり、逆に下がったりする可能性もあるので注意しましょう。
Chameleon Forums で紹介されているレシピ
具体的なガットローディング用のレシピですが、わが家もまだ勉強中で、何かをおすすめできるほどではありません。
その代わり、一例として Chameleon Forums に掲載されているレシピを紹介しておきます。
- カテゴリー 1(70%):葉物野菜
- カテゴリー 2(15%):他野菜
- カテゴリー 3(10%):果物
- カテゴリー 4(5%):補助食品
- ミツバチ花粉、桑の葉、市販のガットローディングフード
※1)少量のシュウ酸を含む食材、大量に使用するのは避ける
※2)Ca:P比1:1未満なものの、カルシウムとリンの含有量差が10mg以内の食材
- 食材をミキサーで液状にする
- カテゴリー 1 〜 4 を体積比で 70:15:10:5 の割合で混ぜる
- 余ったら製氷皿で冷凍しておくと便利
このレシピでは、食材が 4 つのカテゴリーに分けられています。
選んだ食材をミキサーで液状にし、体積比で 70:15:10:5 の割合で混ぜるというものです。
余った場合は製氷皿で冷凍しておき、使用直前に解凍すると便利だと書かれています。
レシピにある食材は一度に全種類使う必要はありません。
自分なりのローテーションを組んで、できるだけ多くの食材を使うようにしましょう。
上記レシピはあくまで一例で、他に野菜や果物をミキサーにかけずにそのまま与える方法もあります。
食材の比率も違うものが推奨されることもあるので、絶対的な正解があるわけではありません。
重要なのはレシピではなく、目的である栄養素の多様化だと忘れないでください。
【参考】Chameleon Care Images | Chameleon Forums
生の野菜や果物の選び方
ガットローディングに使用する生の野菜や果物には、与えることで逆に栄養バランスが悪化するものもあります。
前述の参考レシピでは、食品成分データベースをもとに、以下の条件を満たす食材を選びました。
条件とした理由を解説しますので、各ご家庭で追加の食材を選ぶ時の参考にしてみてください。
Ca:P 比は最低 1:1 できれば 2:1 以上
使いたい食材の Ca:P 比は必ず確認します。
せっかくダスティングで活き餌の Ca:P 比を上げるのに、ガットローディングに下がるような食材を使うのは非効率です。
明らかにリンの割合が高い食材は使わないか、使っても少量に留めるべきです。
ただし、理想の Ca:P 比 2:1 以上の野菜や果物だけだと、選択肢はかなり狭まってしまいます。
妥協案として、Ca:P 比 1:1 以上の食材をメインとして使用するのが 1 つの指標です。
必ず食材の Ca:P 比を確認した上でルーティンに組み込むようにしましょう。
シュウ酸の含有量に注意
各食材のシュウ酸の含有量にも注意が必要です。
シュウ酸はほうれん草などに多く含まれ、エグ味の原因とされます。
Ca:P 比に注意して食材を選んでも、シュウ酸が大量に含まれているとカルシウムがうまく吸収されません。
体内でカルシウムと結合して、吸収を阻害してしまうからです。
ただし、シュウ酸は比較的多くの食材に含まれています。
特に含有量の多い次の野菜を避ける程度で構いません。
- ほうれん草
- 100g 中 650mg 含有
- タケノコ
- 100g 中 654mg 含有
一般的な野菜や果物の中では、ほうれん草とタケノコが飛び抜けて多くのシュウ酸を含むので注意してください。
その他、さつまいもにもシュウ酸が含まれますが、ほうれん草やタケノコの 1/6 以下とされています。
【参考①】カルシウムの吸収 | カルシウム相談室
【参考②】医薬品情報21 » Blog Archive » 飲食物中の蓚酸含有量について
その他使わない方が良い食材
本記事では、ガットローディングに使用するのは野菜や果物であると述べています。
しかし、国内の謎ガットローディングでは、他の食材をすすめているケースがあります。
以下の食材は、カメレオンにとって悪影響が出る可能性があるのでおすすめしません。
- 煮干し・鰹節
- 塩分、ビタミン D3 が含まれる
- キノコ類
- ビタミン D2 が含まれる
特に煮干しは動物性タンパク質を目的として、活き餌の主要な餌に推奨されるのを見かけます。
しかし、魚介類は塩分の過剰摂取の危険性が高いです。
メルク獣医マニュアルの肉食爬虫類の推奨栄養素濃度では、ナトリウムの推奨値が 0.2% とされています。
煮干しの 1.7% はかなりの高濃度です。
塩分とビタミン D の過剰摂取の可能性を考え、タンパク質は大豆や穀物を含む普段の活き餌用フードで与えることをおすすめします。
【参考①】Nutrition in Reptiles – Management and Nutrition – Merck Veterinary Manual
【参考②】魚介類/<魚類>/(いわし類)/かたくちいわし/煮干し – 01.一般成分表-無機質-ビタミン類
補足:なぜ生の野菜や果物が利用されるのか
海外におけるガットローディングで生の野菜や果物が使われる理由は、栄養素の多様化に最適だからです。
人のビタミンは 13 種、ミネラルが 16 種と特定されています。
しかし、カメレオンのビタミンとミネラルは全て特定されているわけではありません。
カルシウムやリン、ビタミン D など、よくある病気に関係する成分がわかっているだけです。
野生下では餌の多様性によって偶然摂取できている栄養が、実はカメレオンのビタミンかもしれません。
一方、飼育下では活き餌から得られる栄養素のバリエーションが限られます。
サプリメントで補おうにも、どの栄養素が影響しているかわからない限り対策できません。
そこで重要になるのが、偏りを避けて少量ずつ多様な栄養素を摂取しておくという考え方です。
生の野菜や果物には、人にとってのビタミンやミネラルだけでなく、類似の副次的な栄養素が多く含まれます。
この副次的な栄養素は、化学的に精製されたサプリメントには含まれないものです。
多様な栄養素を活き餌の餌を通してカメレオンに与えるのには、生の野菜や果物を使用するのが最適です。
【補足①】ガットローディングよりも大切な基本を徹底する
ガットローディングを考える前に、基本的な活き餌の管理を徹底することが大切です。
次のうち、どれかやれていないことがあるのなら、ガットローディングより先に改善してみてください。
- 高品質な活き餌を入手する
- 活き餌のお世話はこまめに
- 給餌には必ずカルシウムをダスティング
高品質な活き餌を入手する
わが家でも色々なお店で活き餌を購入したことがありますが、お店ごとに活き餌の品質は違います。
おすすめは活き餌専門店で購入することです。
残念ながらペットショップや Amazon などで販売されている活き餌は、品質が低いと言わざるを得ません。
質の低い活き餌にガットローディングをしたところで、カメレオンの体を作るタンパク質やエネルギー源の脂質など、基本的な栄養素を十分に与えることができません。
まずは、しっかりと元気で質の良い活き餌を入手することが大切です。
カメレオン飼育者に人気なコオロギを扱う、活き餌専門店を紹介した記事があるのでこちらもぜひご覧ください。
活き餌のお世話はこまめに
高品質な活き餌を手に入れたら、質を落とさないように可能な限りこまめなお世話をします。
水分不足でカラカラだったり、排泄物の毒素が回ったりした活き餌ではガットローディングを語る段階にありません。
中には色々な工夫をして「1 週間に 1 度のお世話でも臭いが出ない!」と言うような方法が紹介されていたりします。
しかし、その状態は本当にカメレオンのためかを考えてみてほしいと思います。
もしガットローディングを実施するなら、新鮮な野菜や果物を毎日用意しなければなりません。
お世話の手間や時間を確保できないようなら、ガットローディングは選択肢に入らないはずです。
まずは活き餌の品質を落とさないよう、こまめなお世話を習慣にすることが大切です。
コオロギの飼い方を紹介した記事もあるので、ぜひ読んでみてください。
給餌には必ずカルシウムをダスティング
先にも述べたとおり、商業的に流通する活き餌の Ca:P 比は非常に小さく、カルシウムが不足しています。
給餌の際にカルシウムパウダーをダスティングしていないなら、すぐにダスティングをするようにしてください。
カメレオンの代謝性骨疾患(MBD)を防ぐのは、ガットローディングよりもずっと大切なことです。
サプリメントと MBD との関係について解説した記事もあわせてご覧ください。
【補足②】カルシウムを補う上でガットローディングとダスティングどちらが優れているか
Ca:P 比を整える上で、ガットローディングとダスティングのどちらが優れているのかについて深掘りしてみます。
複数の論文を参照しつつ、どのようなことが読み取れるのかをまとめました。
結論から言うと、Ca:P 比を整えるのであればダスティングがおすすめです。
ガットローディングには不確定要素が多い
ガットローディングで重要になるのが、活き餌がどの程度カルシウムを食べてくれるかです。
この活き餌の食欲をコントロールするのが非常に困難で、不確定要素として問題になります。
以下はガットローディングに関する論文の実験結果についてまとめたものです。
論文 | 活き餌 | 飼料Ca濃度 | 最高Ca:P比 | 市販品か | |
---|---|---|---|---|---|
Mary E. Allen, 1989 | イエコ成虫 | 12% | 1.72 | × | |
イエコ成虫 | 10% | 1.31 | × | ||
イエコ成虫 | 8% | 1.30 | × | ||
Amy S. Hunt, 2001 | イエコ成虫 | 9.1% | 0.47 | ○ | |
イエコ中間 | 9.1% | 0.63 | ○ | ||
イエコ週齢 | 9.1% | 0.66 | ○ | ||
ミルワーム大型 | 9.1% | 0.63 | ○ | ||
ミルワーム中型 | 9.1% | 1.10 | ○ | ||
ミルワーム小型 | 9.1% | 0.99 | ○ | ||
Schlegel ML, 2005 | イエコ成虫 | 9.5% | 0.88 | ○ | |
イエコ成虫 | 8.0% | 0.80 | × | ||
イエコピンヘッド | 9.5% | 0.71 | ○ | ||
イエコピンヘッド | 8.0% | 0.20 | × | ||
Mark D. Finke, 2005 | イエコ成虫 | 10.34% | 0.89 | ○ | |
イエコ幼虫 | 10.34% | 1.26 | ○ | ||
Matthew A. Brooks, 2017 | イエコ+MBB | 8.80% | 0.98 | ○ | |
イエコ+MHC | 9.33% | 0.57 | ○ | ||
イエコ+OZTC | 1.29% | 0.13 | × | ||
ミルワーム+MBB | 8.80% | 0.70 | ○ | ||
ミルワーム+MHC | 9.33% | 1.31 | ○ | ||
ミルワーム+OZTC | 1.29% | 0.18 | × | ||
スーパーワーム+MBB | 8.80% | 0.41 | ○ | ||
スーパーワーム+MHC | 9.33% | 0.57 | ○ | ||
スーパーワーム+OZTC | 1.29% | 0.13 | × |
スライドできます→
Allen(1989)の実験では、飼料中の Ca 濃度が高い方がコオロギの Ca:P 比が高くなっています。
表中には含みませんが Finke(2003)では、飼料中の Ca 濃度とガットローディング後のコオロギの Ca:P 比が線形の関係であるとされました。
しかし、条件の異なる複数の論文を比較すると、飼料中の Ca 濃度が同等でも同じ Ca:P 比にはならないことがわかります。
同じ Ca 濃度でもコオロギの Ca:P 比が違うのには、複数の不確定要素が関係しています。
論文中で指摘されていた、Ca:P 比に影響を与える要素は以下のとおりです。
- 活き餌の成長段階
- 内臓が占める体積が変わる
- 寿命が近くなると餌食いが落ちる
- 活き餌の嗜好性
- 好みによって餌食いが変わる
- 飼育環境
- 温度や湿度によって餌食いが落ちる
これらの不確定要素がある中、メーカーが想定している効果が自宅で得られるかは不透明です。
ある程度条件を詰めている論文の Ca:P 比を見ても、条件が悪ければ簡単に 1:1 を割ることがわかります。
不確定要素の多さがガットローディングの最も大きな課題の 1 つです。
【参考①】Dietary Manipulation of the Calcium Content of Feed Crickets(Mary E. Allen, 1989)
【参考②】Effects Of A High Calcium Diet On Gut Loading In Varying Ages Of Crickets (Acheta domestica) And Mealworms (Tenebrio molitor)(Amy S. Hunt, 2001)
【参考③】EVALUATING GUT-LOADING DIETS AND DUSTING TO IMPROVE THE CALCIUM CONCENTRATION OF PIN-HEAD AND ADULT CRICKETS (Acheta domesticus)(Schlegel ML, 2005)
【参考④】Evaluation of Four Dry Commercial Gut Loading Products for Improving the Calcium Content of Crickets, Acheta domesticus(Mark D. Finke, 2005)
【参考⑤】GUT-LOADING DIET EVALUATION FOR CRICKETS (ACHETA DOMESTICUS), MEALWORMS (TENEBRIO MOLITOR), AND SUPERWORMS (ZOPHOBAS MORIO) FOR THE PURPOSES OF OPTIMIZING INSTITUTIONAL PROTOCOLS (Matthew A. Brooks, 2017)
【参考⑥】Gut loading to enhance the nutrient content of insects as food for reptiles: A mathematical approach(Finke,2003)
ガットローディングは Ca:P 比が小さめ
ガットローディングとダスティングの結果を見比べて明確に違うのが、Ca:P 比の余裕です。
複数の論文を確認すると、ガットローディングは Ca:P 比が最大でも 2:1 未満です。
ガットローディングの不確定要素を考えると、安全率を取って 2:1 より高い Ca:P 比を確保しておきたいところです。
しかし論文のデータからも、ガットローディングだけで 4:1 といった高い Ca:P 比を確保するのは困難であるとわかります。
ガットローディングで高い Ca:P 比を確保するのが難しい理由は 2 つです。
- 栄養素の偏り
- 共食いの原因になる
あまりに高い濃度で飼料にカルシウムを混ぜると、活き餌が生きるのに必要な栄養素を十分に与えられません。
現在市販されている高カルシウム飼料で一般的な 8 〜 9% 程度のカルシウム濃度でも、数日間のガットローディングで寿命が縮むケースがあります。
また、栄養素の偏りから共食いをすると言う報告もあり、飼料中のカルシウム濃度を極端に上げることはできません。
結果的に、ガットローディングだけで安全率を考慮した Ca:P 比を確保することは難しいと言えます。
ガットローディングは正しい Ca:P 比になったか確認できない
ガットローディングで一番問題だと感じるのが、正しい Ca:P 比を維持するのが難しいのに、それを確認することができない点です。
しっかりガットローディングした活き餌と、そうでない活き餌を見分けることができるでしょうか?
論文では専門の分析器を使用して Ca:P 比を確認していますが、自宅でカメレオンに与える時に見分ける方法はありません。
きちんとガットローディングできていないと気づくのは、カメレオンが MBD を発症した時…と言うこともあり得ます。
前述のとおり、ガットローディングでは不確定要素が多い上、そもそもの Ca:P 比が低めです。
適切な Ca:P 比にできるか不安があるのに、結果を確認する方法もないのは手法として脆弱と言わざるを得ません。
総合するとダスティングがおすすめ
一方で、ダスティングはガットローディングにある不確定要素を減らすことができます。
論文で指摘されるダスティングの不確定要素は、時間経過と活き餌の成長段階です。
ダスティングでは、活き餌が体についた粉末を自分で振り落とすことで、時間を追うごとに Ca:P 比が落ちていくことが知られています。
どの論文でもダスティング直後が最も Ca:P 比が高く、2 〜 3 時間以内に生体に与えることが推奨されています。
とはいえ、健康なカメレオンが活き餌を平らげるのに通常は数十分、どれだけ長く見積もっても 1 時間あれば十分です。
また、活き餌がコオロギの場合、成虫では Ca:P 比が低くなる傾向も見て取れます。
ただし、幼虫と比べて Ca:P 比が低いといっても、ガットローディングより全体の Ca:P 比が高いです。
以下は複数の論文からダスティング後の最高 Ca:P 比をまとめたものです。
論文 | 活き餌 | 飼料Ca濃度 | 最高Ca:P比 | 市販品か | |
---|---|---|---|---|---|
Schlegel ML, 2005 | イエコ成虫 | 40% | 6.47 | × | |
イエコピンヘッド | 40% | 4.86 | × | ||
Christopher J. Michaels, 2014 | クロコ成虫 | 20.8% | 2 | ○ | |
(活き餌の種による比較) | クロコ4令 | 20.8% | 7 | ○ | |
クロコ2令 | 20.8% | 5 | ○ | ||
クロコ初令 | 20.8% | 9 | ○ | ||
ジャマイカンコオロギ成虫 | 20.8% | 4 | ○ | ||
ジャマイカンコオロギ4令 | 20.8% | 3 | ○ | ||
ジャマイカンコオロギ2令 | 20.8% | 4 | ○ | ||
ジャマイカンコオロギ初令 | 20.8% | 19 | ○ | ||
Christopher J. Michaels, 2014 | クロコ4令+VetarkProfessional | 20.8% | 7 | ○ | |
(製品別の比較) | クロコ4令+Exo Terra | 35% | 5 | ○ | |
クロコ4令+ZooMed | 38% | 6 | ○ | ||
Amanda Ardente, 2017 | イエコ成虫+Repashy | 28.5% | 5.7 | ○ | |
イエコ成虫+Rep-Ca | 39.5% | 4.9 | ○ | ||
イエコ成虫+オリジナル粉末 | 27% | 1.5 | × |
スライドできます→
先ほどのガットローディングの表とあわせて、市販品を使用した同種の活き餌の数値をまとめると以下のようになります。
- ガットローディング
- イエコ成虫:0.47 〜 0.98
- ミルワーム:0.63 〜 1.31
- ダスティング
- イエコ成虫:4.9 〜 5.7
- クロコ 4 令:5 〜 7
ダスティングは同一の活き餌の中でのばらつきが小さく、一貫して高い Ca:P 比を確保できているのがわかります。
ダスティングでは不確定要素は減らすことができ、Ca:P 比にも余裕があるため、一般家庭でも確実に Ca:P 比をあげることができます。
少なくとも有名メーカー製のカルシウムパウダーを使用していれば、まずカルシウム不足にはならないはずです。
今も多くの専門家やブリーダーがダスティングでカルシウムを添加するのは、このような理由だと考えられます。
【参考①】EVALUATING GUT-LOADING DIETS AND DUSTING TO IMPROVE THE CALCIUM CONCENTRATION OF PIN-HEAD AND ADULT CRICKETS (Acheta domesticus)(Schlegel ML, 2005)
【参考②】Manipulation of the calcium content of insectivore diets through supplementary dusting(Christopher J. Michaels, 2014)
【参考③】PRACTICAL INVESTIGATION OF CRICKET DUST SUPPLEMENTS COMMONLY USED TO ENHANCE DIETS PROVIDED TO INSECTIVORE SPECIES UNDER HUMAN CARE (Amanda Ardente, 2017)
補足の補足:ガットローディングフードとビタミンサプリメントの併用に注意
ガットローディングフードとビタミンサプリのダスティングの併用には注意が必要です。
市販のガットローディング専用フードには、カルシウムだけでなくビタミンも添加してあります。
体内に蓄積する脂溶性ビタミンの場合、併用によって過剰摂取に陥る可能性があります。
ただし、パッケージにビタミン A と表記してあっても、実際には前駆体のβカロテンの形で含まれていて過剰摂取の可能性がなかったり、逆にビタミン D と表記があっても、よりリスクの高い代謝産物のカルシフェジオールが含まれることもあります。
含まれている成分の重複が気になる場合は、製造メーカーに確認してから使用することをおすすめします。
ガットローディングの意味と目的について まとめ
今回は、言葉だけは頻繁に聞くガットローディングの意味と目的について解説しました。
ガットローディングは爬虫類飼育の中でも優先順位の低い、応用的な手法です。
基本的なお世話を最適化しても、カメレオンに健康問題が出た時に試す程度で構いません。
カメレオンにとって、日常の健康管理や温度湿度の管理、質の良い活き餌を与えること以上に大切なことはないからです。
その上で、必要だと感じたら海外におけるガットローディングを試してみてください。
飼育下のカメレオンが得られる栄養素に偏りがあるのは事実です。
ガットローディングによって多様な栄養素を与えることで、他の方法で改善できなかった問題が解決するかもしれません。
独り歩きした専門用語や、それを使ったマーケティングに踊らされず、基本を徹底した上で適切なガットローディングを実施してほしいと思います。
この記事がカメレオン飼育者の方や、これから飼い始める方の参考になれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。